ホワイトデー大策略


3月14日。雪月の日。2月14日の対になる日だ。
まぁ、要するに男の子から女の子へ告白・・または、プレゼントのお返しをする日だ。
男から女へというと、当たり前に聞こえるかもしれないけど、実際はどうなのだろうか・・・。

「え?何でもいいの?」
「あぁ。ま、俺になーんでも頼んでみろ。好きなことを叶えてやるぜ?」
ロストールの宿屋で、冒険の準備をし始める女性に男性が話しかける。
「今日は・・・んまぁ、俺がお前に何かプレゼントすればいいんだろうけど・・な〜んにも思いつかなかった。」
ぽりぽりと頭をかく仕草は彼の癖だ。照れくさいときによくやる仕草と彼女はしっていた。
「ふ〜ん。ゼネテスがねぇ・・・」
「おい、ディーナ。それはどういう意味だ・・・?」
くすくすと笑う女性はディーナ。そして、それを憮然と見ている男性がゼネテスという。
どちらも有名な冒険者である。
「別に悪い意味はないんだけど・・・なぁんか企んでない?」
じっとゼネテスを見るディーナ。
「おいおい。恋人を疑うなんて悲しいねぇ。せっかく俺がディーナを楽しませてやろうというのに・・」
しくしくと泣き真似をし始めるゼネテス。
・・・・・はっきりいって気持ち悪い。
「わ、わかったわよ!悪かったってばぁ!だから、やめてよ・・・気持ち悪いなぁ・・・」
「気持ち悪いって・・・んまぁ、いいか。で、どうする?何がほしい?」

宿屋を出るときに、ディーナはオヤジに声をかける。
「あ、今日も泊まるから、はい。」
「おや、今日は仕事するような話しじゃなかったんかい?」
にやにやとからかうような口調だ。オヤジも今日は何の日か知っているのだ。
「今日はね、ゼネテスが私にいっぱ〜い貢いでくれるんだって♪帰りには両手にいっぱい荷物もってくるからね。」
ルンルンと、宿屋を出て行くディーナを見送るオヤジ。そして、一言。
「ゼネさん、たまには休ませてやれよ。」
「さてね。」
にやにやと笑いながら出て行くゼネテス。どうやら、何かを企んでいるのは確からしい。
「ディーナも・・・大変だな。」
ため息と共に出た言葉は、ディーナに届いたのかどうか・・・

『今日1日私の言うことを聞く』
これが、ディーナが出した今日のお願いであった。さっそく出されたのが、今日は私に触れるのは禁止。
笑えるような話なのだが、ゼネテスにしてみれば、せっかくラブラブになったばかりの恋人に触れられないと言うのは拷問に等しいらしい。
先ほどから肩に手をかけようとして、はねのけられている。
「あ、ゼネテス!指輪と・・・このネックレスと・・・あとね、ブレスレット♪」
ディーナが指定したのは、紫水晶<アメジスト>の3点セット。手ごろな値段で、そんなに高くない。
とはいったのもの、この感覚は一応貴族のゼネテスにとってであり、普通の冒険者にはとてもじゃないが手がだせない。
ディーナまでの名高い冒険者であれば、レイスやマンティコアなどの退治の依頼を2,3回達成すればブレスレットだけでも簡単に手が入るほどの値段といえばわかるだろうか。
「お前さんなら似合うだろうね。瞳の色といっしょだしなぁ・・・。でも、指輪だけは・・・これにしてくれや。」
ゼネテスが店の支配人を呼び、こそこそと話している。そして支配人がにこりと笑い、一番奥のショーケースから大事そうにもってきた指輪をゼネテスに渡す。そして、ゼネテスがディーナに渡した。
それは、深い紅で、果物の石榴を思い浮かべる。柘榴石<ガーネット>だ。
柘榴石<ガーネット>の指輪は、ディーナの誕生石だ。誕生石の指輪を送るのは、婚約指輪として一般的な贈り方である。
「・・・・・いいの?」
あっという間に手続きをしたゼネテスを止める暇もなく、ディーナは少し不安な顔をしている。
「どうせ使うことのない金だ。どうせなら、好きな女に使えば、お金も喜ぶだろうよ。」
ゆっくりと指にはめる指輪をディーナは嬉しそうに眺めていた。

次に足を止めたのは、花屋の前。
「その薔薇全部くれるかい?」
いきなりの申し出に驚く花屋の店主とディーナ。
「全部ですか?」
ロストールでも一番大きい花屋でもあり、はっきりいって、持って歩ける量ではない。
「あぁ・・・とりあえず、小さい花束にして・・残りは・・・・」
再びこそこそと話し出すゼネテス。
「・・・・・なぁにか企んでる・・・」
とは思ったものの、花を貰うのははっきりいってディーナは嫌いじゃない。むしろ嬉しいくらいだ。
そんな企みだったら受けてたとうかな、とこっそり思う。

小さい花束を持ち、ディーナは自分からゼネテスの腕に自分の腕を絡めていた。
それが自然だ、というように。
「さてと、あとは何がほしいかな?」
からかうようなゼネテスの声。
「・・・・今日はね・・・普通の恋人したかったの・・・」
対称に幸せそうなディーナの声。
「普通のって・・・一応、俺達恋人だろ?」
「うーん・・・でも、最近、一緒にこうして歩くことなかったでしょ?歩くっていっても、街に移動するときとか・・旅してるときとか・・・。そうじゃなくて、私はこうして、デートしたかったの。」
わかる?というような表情でディーナはゼネテスを覗きこむ。
「嬉しいこといってくれるねぇ。俺としちゃ、毎日がデートみたいなもんだが、確かにこういうのも悪くない、な」
「でしょ?だから、たまにはデートしようね?」
ディーナのそういう表情が見れるならいつでも、とは口には出さない。いや、口に出せなかった。
頬を染めて幸せそうに笑うディーナの笑顔に見惚れていたのだから・・・・。

「こんなとこでよかったんかい?」
「こんなところで悪かったね、ゼネさん。」
ゼネテスの声に反応したのは、ディーナではなく、酒場のオヤジだった。酒場は酒場でも、ゼネテスの得意先、スラムの酒場だ。
「いや、そういう意味じゃなくてだ・・・おい、ディーナ。笑ってないで、助けてくれよ。」
「あははは・・・だって・・今のはゼネテスが悪い、ね、オヤジさん?」
頷きあう二人に、まいったと肩をすくめるゼネテスの行為に、二人はますます笑いあった。
「今ね・・・二人きりになったら、私ね、なんか・・・恥ずかしくて・・」
思わずゼネテスがどきん、と心臓が跳ね上がるような気がした。
「・・・・あてられるねぇ・・・ゼネさん、極上のワインやるから、二人きりでやってくれないかい?」
オヤジがいてもいられないように、ゼネテスにワインをおしつけて二人を追い出す。
後についてきた野次の声と共に。

酒場を追い出された二人は、仕方なく宿に戻ろうと歩き始めた。・・・のだが・・。
「あれ?ゼネテス、宿、こっちじゃないよ?」
「ん、あぁ、ちょっと俺についてきてくれ。最後の贈り物が残ってるんだよ。」
宿を通りすぎ、ついた先は、ゼネテスの私邸だった。
夜もふけているといるせいか、妙に静かな館に、二人の足音が響き渡る。
「誰もいないの?」
無言が苦しくて、ディーナが声をだす。思ったより響き渡る声に、驚いて口をおさえる。
「あぁ、今日は特別に引き払ってもらった。・・・こっちだ。この部屋空けてくれ。」
2階のつきあたりの部屋。ディーナは恐る恐るドアをあけ、そしてドアの向こうに広がる光景に目を見張った。

「・・・・・・・こ、これって・・・・さっきの?」
ゆっくりと部屋に入るディーナの後をゼネテスがついて歩く。
「あぁ・・・まぁ、俺の趣味じゃないってことは確かだぜ?」
ぽすん、とベッドに座る。その衝撃で、ベッドの上に散らばされた薔薇の花びらが床にひらひらと舞い落ちる。
ゼネテスの寝室だったこの部屋は、今や薔薇のはらびらで埋め尽くされていた。
きつくもない薔薇の香りに、ディーナはアルコールを飲んだときのように、いや、それ以上に酔いそうになり思わずゼネテスに抱きついた。
すっぽりとゼネテスの腕の中にディーナが入る。ゼネテスはゆっくりと背中に手を回して、薔薇の匂いよりもディーナの匂いに酔いしれる。

「あと・・・5分で今日は終わる。あと欲しいのはあるかい?」
耳元でそっと囁く。
「私が一番欲しいのは・・・・・・」
ディーナもこっそりとゼネテスの耳元に囁き返す。

後に残ったは幸せそうな二人の姿だけ・・・。

見守っていたのは、薔薇の花びらと窓からもれる月の姿のみだった。

FIN
なぜか難産でした・・・。
ホワイトデー編です。一応、バレンタインの対になってます。
ゼネテス・・・ちょっとキザ?(笑)
これを書くにあたっては、某ギルドの冒険者の皆様に感謝を申し上げます。

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