| 笑う人形 |
| 「あぁ、すっかり遅くなっちゃった。マイルのヤツ、酔うといつも絡むんだから。」 サクサク、と草を踏む音とアリスの声だけが辺りに響く。 少し背中に寒気を感じて、アリスは余計に声を大きくする。 「もう!女の子を一人で夜道を歩かせるなんて、最低!今度会ったら、奢らせるんだから!」 怖かったからかも知れない。 とりあえず、アリスは誰もいないのに、声を止めることはしなかった。精一杯の強がりなのかも知れない。 今日はアリスの最愛の彼マイルとの3回目のデートだった。家族には女友達と遊んでくる。もしかしたら、泊まってくるかも知れない、という伝言を残して。 つまり、アリス的にはそれなりの期待と覚悟があったのだ。 ひとつの誤算は、マイルがお酒に弱いことであった。 アリスとしては、お酒に酔って、ちょっと可愛いところを見せて、甘えてみよう、という計算だったのだが、甘える前に、マイルが潰れたという、何とも力が抜ける結末であった。 グデグデに酔ったマイルを抱えて歩くわけにも行かず、お店の人の好意により、マイルは置いて帰ったのだった。 「・・・最低!女の子の決心がどれだけ大変なのか分かってないんだから!」 ぷんぷんと肩を怒らせて歩く。 どうやら、怒りが恐怖に勝っているらしかった。 夜遅いこともあり、ノーブルの町はずれは誰もいなかった。もとよりノーブルはそんなに大きい街でも無く、夜になると、酒場以外は閑散とする。 アリスの家は、街はずれの森の近くにあるため、ただでさえ人は居ない。 いつもなら、近くまでマイルに送ってもらうのだが、どうやら今日は諦めるしかなかった。 ガサガサ・・・ 不意に後ろで草むらが動く。 ビクリ、とアリスの足が止まった。 このへんは一応安全地帯なのでモンスターはでない。 (もしかしたら、変質者かしら・・・。でも、モンスターかも・・) 汗が頬を伝う。冷たい汗だった。 酔いも一気に醒める。怒りも納まる。 恐怖が・・・じわりじわりとアリスを襲いはじめた。 (逃げなきゃ) そう思っても足が動いてくれない。動いて!と願うほど、足はがくがくと震えるばかりだ。 気配は徐々に近くなっていく。 恐る恐る、ゆっくりと後ろを振り返った。 「どうしたの、こんなところに一人で。」 透き通るような声だった。 女性の声。 一気にアリスの緊張感が抜け、ぺたんと草むらに腰を下ろした。 「あ、ごめん。もしかして、驚かせちゃった?」 声の主は、こちらへ駆け寄って、慌ててアリスを立たせた。 「だ、大丈夫です。ちょっとびっくりしちゃって。」 急に辺りが明るくなった。 声の主の彼女が持っていた明かりのせいだった。 明るくなると不思議に恐怖も和らいでくるものだ。アリスはそう思った。 無論、一緒に歩いているのが女性というのもあったからだろう。 「私は冒険者の。ノーブルがね、私の故郷なの。ちょっと仕事で来ててね。でも、危ないよ、いくら安全地域だからといって、女の子の一人歩きは。」 本当に心配しているらしく、身内のように怒っている。 「ごめんなさい。実は・・・」 アリスはなぜか彼女にマイルとのことを話した。初対面なのに・・とも思いながら、に気を許している自分に気付く。 「あらら・・。そうなんだ〜。それは災難だったね〜。でもいいなぁ。私の知ってる人なんてね、お酒強いんだけど、スケベだから、気を抜けないのよね〜。酔って潰れてくれた方がどんなに楽か。」 はぁ、とため息をつくに、思わずアリスがぷっと吹き出す。 それにつられたかのように、も笑う。 あたりは一気に明るい空気に包まれた。 「・・・!」 不意にが止まり、後ろを振り向く。 「どうしたんですか?」 アリスが不安そうな顔で彼女に問う。 「あ、うん。なんでもない。そろそろお家? 本当にこのへんで大丈夫? どうせなら、家の前まで送るけど。」 「大丈夫です。うちの親、私が朝まで帰らないっていっても、いつも門の前でうろうろしてて。冒険者さんの人と一緒に帰ったら、それこそ何事だといわれてしまいます。」 「それもそうか。じゃ、気をつけて。何かあったら、叫ぶのよ。私すぐ駆けつけるから。」 が本当に心配そうに言うものだから、思わずアリスも頷いてしまう。 手を振って、二人は別れた。 はアリスがいなくなってから、辺りを見回した。 「気の・・・せいかな。」 首を傾げると、もと来た道を歩いていったのだった。 無理矢理でもついていけばよかった。 そう後悔したのは、2日後のこと。 アリスの姿は、そこから途絶えたのだった・・・・。 |