だからその手を離して
ゼネテス→

コツリコツリ。
廊下を歩く私の足音と・・・

コツコツ・・・

もう一つの足音が重なる。

誰かがあとをつけている。
それを誰か、私は知っている。

ここはロストールにある王城の中。私はティアナに会いに部屋に向かう途中だった。

「いい加減、でてきてよ、ゼネさん。」
私は後ろをくるりと振り向くと、一言呟いた。
静まりかえった廊下は、その呟きさえも異様に響いて聞こえる。

コツコツ。
足音が近づくと同時に、彼は私の前に姿を現した。
「なんだ。やっぱ、ばれてたか。さすがだな。俺が認めただけのことはある。」
「私は認めてないもん。」

ゼネテス。
冒険者としても名高い彼の正体は、大貴族の息子。
そして・・・・。

「兄様を陥れた奴らの血を引いている奴らなんて大嫌いよ。・・・例えそれが長年冒険していた先輩だったとしても・・例え・・・」

私は声を詰まらせた。
そして再びくるりと振り向いて、歩きだした。
そう・・・本来の目的であるティアナの部屋へと。

ゼネテスはひとつ肩をすぼめるとやはりついてくる。
私は一瞥を加え、無視することにした。長年の付き合いで分かっている。
ゼネテスをかわすのは、レイスの攻撃をかわすのより難しいことを。

ギィ・・・
鈍い音を立てて扉が開く。
部屋の中は・・・花であふれていた。

「今更後悔しても遅いのよね。」
私は持ち主のいない部屋に、やはり黒いリボンに結ばれた花をポンと置いた。

ティアナは先の戦いで・・・・レムオンと共に闇に消えた。

ぽん、と頭に置かれる大きな手。
辛いときにいつも隣にあった温かい手。

私はそれを振り払った。
「ゼネさん、私は、あの話し、受けるつもりはないからね。」
彼の顔をわざと見据えてそう言った。
「そんなに俺が嫌いか?ちょっとショック受けるぜ?俺・・」
相変わらず冗談なのか本気なのか分からない。
でも今の私にはそれが嬉しかった。

ティアナがいなくなった原因を知るや、エリスはかなり錯乱したらしい。そして私に何度も謝罪の手紙やら贈り物やらをしてきた。

ふざけないで。

それが私の感想だった。

女は勝手な動物だ。
以前そんなことを聞いたことがある。確かにそうだと思う。
本来・・・私はレムオン兄様とは血のつながりもなにもない関係なのだから。
私が怒る筋合いなど特にない。

だけど・・・知ってしまった。
兄以上の存在であることを。

だから余計に許せない。
兄様が行方不明の時は謝りもしなかったクセに。
自分の娘がいなくなってからその過ちに気付くなんて。

勝手だ。

だから私は、エリスからの全ての話を断った。

特に・・・

『ゼネテスと婚約』

これだけは、天と地が逆さになっても受け入れない。
例え、受けなければ殺すと言われても。
まぁ、殺しに来たところで、返り討ちにあうのは相手も分かってるだろうからそんなことは口が裂けても言わないだろうが。

私は部屋をあとにしようと、ゼネテスの横をすり抜けた・・・つもりだった。

ぐぃっと引き寄せられたかと思うと、私はゼネテスの胸の中にいた。

驚いて身体が動かない私の耳元で、ゼネテスはそっと囁く。

「好きだ。」

一言。
それだけ。
そして、私を解き放った。

ぺたんとその場に座り込む私を、優しい笑顔で包むと、ゼネテスは背を向けて部屋を出ていった。

コツコツと足音が消えていくのを私は聞いていた。

「そんなに・・・エリスが大事・・・・」
そう呟いて、私は首を振った。
違う。
分かっている。
あの一言が飾りのない、ゼネテスの本心だったことくらい。

兄様よりも近い存在だったゼネテスには全てお見通しだったのかもしれない。

私が兄様を好きで・・・
そして。

もう一つの生命のことを。





ザザ・・・
潮風が髪を撫でる。

「本当に一人で行くのですか?」
金色の髪がサラサラとなびいた。猫屋敷の主でもあり、私を導いてくれたオル様。
そして、新大陸へと旅立とうとしている私を支援してくれた。
「はい。とりあえず、セラにもフェティにもレルラにもルルにもデルガドにも・・・みんなに挨拶してきました。」
大事な一人の名前がないことにオル様が気付かない訳がない。が、なにも言わなかった。

「このまま私がいてもどうしようもないんです。エリスはそりゃむかつくけど・・・。彼女もまた私を見るたびに辛いでしょうから。」

一息ついて、私は再び海を見る。
船の準備をしている船員達がせわしなく働いている。
出発はもうすぐになりそうだ。

「それだけですか?」

ぐさりと胸を刺す。
驚いてオル様を見る。相変わらずの笑顔だ。
全てお見通しの・・・その笑顔。
私は思わず笑う。

「あぁ、もう。オル様はやっぱり凄いです。分かるんですね。そう。私、兄様の子供がいるんです。」
一世一代の告白。

本人には絶対に話さないつもりだった。
今となっては、本人はいない。
それに、誰かに聞いてもらえれば『何か』が少しは軽くなるかもしれない。
その『何か』はよく分からないけど。

「兄様には黙っているつもりだったんです。一人で育てるつもりだった。だって・・・兄様は貴族ですから。それに・・・血が繋がっていなくても、兄と妹。」

ぺたんと荷の上に座る。ひんやりとした板の感触が頭をスッキリさせた。

「でも、勘違いしないでくださいね? 兄様は私を女性として扱ってくれた。そしてなにより私を愛してくれた。一晩だけ・・だったけど。」

「なぜ俺に相談してくれなかったんだ?」

ガサリ、と、奥から声と共に姿を現したのは・・・。

「ゼネさん!? なんで・・・。! オル様?」
ふと見ると、オル様は少し遠いところで手を振っている。
・・・さ、さすがというか抜け目無いというか。やっぱりオル様、油断できない。

私の目の前にはゼネテスが立っている。
気付かなかった私も悪い。でも・・・。
「なんで、来たの?」
「それはこっちの台詞だ。言っておくが、俺にこのことを知らせてくれたのは、セラだぜ。」
もう!無表情のクセにこういう事には頭が回るんだから!
私は思わず頭の中で悪態をついた。
さすがに本人に向かっては言えない。セラとも長い付き合いだけど、あの顔を向けられるとなにも言えなくなるのは昔と変わらない。

腕を組んで、ゼネさんも荷の上に腰掛ける。
「さて、質問の続きがまだだったな。告白もしてくれたことだし。」
ギク。
いつからいたかは分からないが、どうやらほとんど聞かれていたらしい。
あの・・・
一世一代の告白も。

「あぁぁ!もう!さっぱりと別れる作戦がどうしてこうなるのよ〜!」
思わず私は頭を抱えた。
ゼネテスがビックリした様子を見せたが、私はもうどうでもよかった。
びしっとゼネテスに指差す。

「だって、ゼネさんに話したら、俺が父親になってやるとか、俺と育てようとか絶対言うに決まってるもん。そんなの嫌。この子は私と兄様の子なんだから!!」
一気に捲し立てると、私はふぅと一息ついた。
恐る恐る見ると、ゼネテスは目を丸くしている。そりゃそうかも。
思わず私はクスクスと笑ってしまった。

ゼネテスは、私の笑い声で我に返ったようで、腕組みをはずすと私と同じように笑った。
「ったく、おまえさんは、あっさりと言ってくれるよ。」
頭をカリカリとかくと、ゼネテスは改めて私に向きなおった。
「俺を誰だと思ってる? お前が・・・子供を宿していたことぐらい知っていたさ。そのことを含めて・・・俺はお前が好きだと言ったんだぜ?」

今度は私が驚いて目を丸くする番だった。
いつもゼネテスには驚かされる。
「だが・・お前の性格忘れてたよ。お前だったら、一人で育てれるだろうよ。・・ったく俺の一世一代の告白も効かなかったってわけか。」
ふぅとため息をつくゼネテスに、私は涙が出そうになり、グッと堪えた。

「効いたよ。あの一言。だから私は旅立つことを決心したの。ゼネテスに忘れられるために。」
あんぐりと口を開けて私を見る顔は、剣狼と言われた彼を台無しにするにふさわしい顔だった。

「・・・ってことは俺は自分の告白で自分の首を締めたってことか〜〜???」

頭を抱えて叫ぶゼネテスの声に、何人かが振り返るが、私は思わずそんなゼネテスをお腹を抱えて笑ってしまった。

こうやってみると・・・。
初めから話せばよかったのかもしれない。


しばらくして、船の準備が終わったと船長が挨拶をしに私の元に来た。
私は少ない荷物と剣を2本腰に差して、船へ向かった。
「じゃ、バイバイ。早くイイ女見つけてね。」
「無責任なことを言うやつだな。お前以上にいい女ってのは、そうそういるもんじゃないんだぜ。」
最後まで明るく言ってくれるゼネテスに私は感謝した。

そして、彼を抱きしめて、その頬にキスをした。


お返しはさせなかったけど。

ゼネテスの声が遠ざかっていく。
波の音で消えていく。

バイバイ、私の初恋の人、私を好きでいてくれた人。

私はゼネテスの姿が見えなくなるまで・・・・
見えなくなってもその場を離れることは出来なかった。


夕陽が落ちていく。
身体は冷やしてはいけないと、行く前にゼネテスに何度も言われたことを思い出し、私は船室へと戻ることにした。

あのままゼネテスに甘えていれば、ゼネテスはきっと良い父親になったことだろう。
本当にそう思う。
だが、ゼネテスも貴族なのだ。
そしてこの子はレムオンの子。

闇はどんな綻びも逃がさない。
もう2度とあんな思いはしたくないから・・・・。

「あえて手を振りほどくことも大事なんだね・・・でも思ってたより辛いんだな〜。」
思わずベッドに腰掛けて呟いた。
あの闇の出来事がなかったら、私はリューガ家を出ていくつもりだった。
が・・・。
今思うと、それが出来たかどうか。

ゼネテスが気付いていたくらいだ。兄が気付かないわけがない。
そんな兄が私を手放すはずがない。
自惚れかもしれないが、確信があった。

何処にいてもレムオンは私を捜してくれただろう。

そして怒った顔で、優しく私の名前を呼んでくれるのだ。

、家に帰るぞ」・・・・・と。

私は、闇の戦い以来封印していた涙を一気に解放するかのように、泣いた。

「兄様・・・レム・・オン・・・兄・・さま・・ぁ!!!」

何度も兄の名前を呼び、泣き続けた。

叫びは夜の風と波の中に・・・消えていった。

FIN
中途半端です。なかなかラストが浮かばなくて大変でした。
まぁ私の頭じゃこれが精一杯ということで許してください。テヘ(死)
「Dark Rain」とはまた違った視点。
新年第1発目がこんな暗くていいのだろうかと思いましたが。
まぁ、書いたので載せる(笑)
ゼネテスとのラブラブを期待していた人いたらゴメンナサイ。
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