Calling



「兄様、ただいまぁぁ!!」
明るい声が広い屋敷に響き渡る。
「お帰りなさいませ、様。どうでした。今回の冒険は。」

「おかえり、。」
「エスト兄様。ただいま帰りましたぁ。」

だんだんと声が近くなってくる。
まったく、騒がしいことこのうえないな。
書斎で本を優雅に読んでいたこの家の主、レムオンはゆっくりと本を閉じる。
今日は一日ここで過ごす予定、とセバスチャンに言っていたのにかかわらず、の声を認めた瞬間、あっさりとその予定を変えた。
「冷血の貴公子」と呼ばれた彼を知っている者達ならば、きっとあまりの豹変に目を疑うであろう。
なにせ、彼の口元にはうっすらとではあるが、微笑が浮かんでいたのだから。

「レムオン兄様、ただいま帰りました。」
ぎこちなく、だが、彼女なりにがんばって優雅な礼、というものをしているつもりなのだろう。
ゆっくりと頭を下げる。
そんな妹を見て、笑いがこみ上げるのをレムオンはぐっと我慢する。
「あぁ、お帰り。・・・・とりあえず、風呂に入ることだ。そんな格好で家を歩き回られても敵わん。
・・セバスチャン、に風呂の用意をしてくれ。」

「んもう!女の子に汚いなんてひどぉい。」
汚いなんて一言も言ってないのだが・・・。レムオンは思わず振り返って、を見る。
どうやらその視線が睨んでるように見えたのだろう。
「あ、あ、えっと、お風呂はいってきまぁす!!」
脱兎のごとく、くるりと回れ右、そしてぱたぱたと走っていく
「まったく・・・変わりない妹だ。」

「その割には嬉しそうだね、兄さんは。」
「えぇ、いつ様が来てもいいようにお部屋も掃除して、料理も用意しているんですから。」
が走り去っていく様子を見ているレムオンの後ろで、こそこそと話しているエストとセバスチャン。
「まったく、急に僕を呼び出すかと思えば・・・。兵士がどやどやと遺跡に来たときはどうしようかと思ったよ。」
思い出したようにエストがくすくすと笑う。
どうやらエストを探し出すために、私兵を駆り出したようだ。

「セバスチャン、服の用意と食事の用意をしてくれ。」
「はい、かしこまりました。」
セバスチャンが用意するために一礼をして去っていく。
「さって、僕はどうすればいいのかな、兄さん。」
からかうようにエストが笑いかける。
「久しぶりだな、エスト。お前の相手は俺がしよう。」

「レムオン兄さま・・・ぁ・・・」
扉のところでなかなか出てこない。顔だけだしてもじもじしている。
「何をしている?。食事が冷めるぞ。さっさと来ないか。」
「どうしたの?・・・早くおいでよ。の好物ばかりだよ。」
そう、食事はレムオンにあわせてではなく、に合わせたものばかりだ。

。兄を待たせるつもりか。」
じろりとを睨む。
「ひ、ひゃい!!!」
慌てて扉から出てくる
「・・・ほぅ。なるほどな。」
「うわぁ、すごぉい。じゃないみたいだよ。」
それは誉め言葉じゃないぞ、エスト。思わずレムオンがエストを見る。

「よくお似合いですよ、様。様は青がよく似合います。」
が着ていたのは、水色のワンピースだった。
チューリップの模様があしらっていて、胸元には金色のやはりチューリップのブローチ。
「なんか落ち着かなくて・・・。あ、でも、ありがとうございます。」
そわそわと自分の席に座る。しわを作らないようにと、椅子と格闘する姿が滑稽だ。

「今回は、様が自ら着たい、というものですから、様によく似合う服をがんばって探させてもらった甲斐がありました。」
セバスチャンが楽しそうにレムオンに食後のお茶を出す。
噂の主、はエストと闇の神器とやらについて話している。二人にしか分からないといった感じの内容だったので、自分は入れず、ちょっとむくれているところだったレムオン。
「レムオン様がどんな服がお好きか、随分お気にしておりました。」
どうやら、セバスチャンにはレムオンのご機嫌斜めの理由がわかっているらしい。
さすが長年付き添っているだけのことはある執事。
レムオンは苦笑せざるを得なかった。

「やっぱり兄様・・・笑ってくれないなぁ・・・。」
ぼそりと独り言をいう。隣にいたエストは思わず吹き出すところだった。
どうやら、の前ではあの「いつものレムオンではない表情」を見せていないらしい。まったく、兄さんらしいというか・・・。
「兄さんの笑うところなんて、僕だって滅多に見れないんだよ。兄さんに「とろけるような笑顔」浮かばせる人がいたら、僕はある意味、神になれると思うな。」
散々である。
「やだ、エスト兄様ったら・・・」
笑ってはいけないと思いながらも、ついついレムオンの「とろけるような笑顔」を思い浮かべてしまって笑いがこみ上げてくる。
でも、別にとろけるような笑顔じゃなくてもいいの。にこっと、優しく笑いかけてくれるだけで・・・。
一瞬、考えただったが・・・。
「やっぱり、無理だろうなぁ・・・。」
どうやらあきらめざるを得ないらしいことに気づいた。

「さてと、汚さないように着替えてこなきゃ。兄様が笑わなかったからこれは作戦失敗だなぁ。」
不意に立ち上がるに、エストが不思議そうな顔をしてたずねる。
「作戦って?」
ちょっと恥ずかしそうにがエストに耳打ちする。
「馬子にも衣装だな、とか、よくそれほど似合わないものだ、とか、せめて苦笑いくらい浮かべてくれると思ったの。」
ちょっと憮然とした表情が、がたてた作戦ではないことを物語る。
興味がひかれたエストはさらにたずねてみることにした。
・・・・・あとで後悔するとも知らずに。

「んとね、ゼネテス。」

「なんと言った?今・・・・。」
そう答えたのは、エストではない兄、レムオンであった。どうやら聞き耳をたてていたらしい。
先ほどまで幸せそうな表情を浮かべて食後のお茶を飲んでいたレムオンが、うって変わって、いつもの冷ややかな表情を浮かべている。
「ど・・・したの?兄様・・・。ゼネテスとはお友達なんでしょ?」
ぴくぴくと目尻が動く。
お友達だと・・・?
「あいつが・・・そう言ったのか?」
「う、うん。違うの?」
だんだんとの脳裏にも、「これはやばい」というものが浮かんでくる。そのへんの危険察知はさすが冒険者というところだろうか。
だが、とっさに浮かぶ防御策がないのがまだまだといえるのかもしれない。

「ゼネテスさんって、よく遺跡で僕も会うよ。冒険者のカリスマ的存在らしいね。」
助け舟を出したのはエストだった。さすがにこの雰囲気に我慢できなかったらしい。
は今にも石化寸前だった。
「うん。私みたいに駆け出しの冒険者にはとっても優しいんだ。よく酒場でご飯ご馳走になったし。」
少し和やかなムードになってきたように見えたが、依然としてレムオンの表情から怒りは消えない。
・・・いや、さらにUPしたかもしれない。

(あんの野郎!!自分の婚約者にあき足らず、俺の妹にまで手だしやがって!!!!しかも、酒場だとぉ?そんないかがわしいところに連れ込んで何をするつもりだったんだ?
・・・・・はっ!ま、まさか、もうすでにあいつの毒牙に知らないうちにかかったんじゃ・・・・)
兄、飛ばしすぎ。

「あ、でも、酒場のご飯も美味しいけど、やっぱり家で食べるご飯のほうが美味しいよ。」
兄が飛んでいる最中も、なんとか和やかなムードに戻そうとする3人。
だが、その間にも兄はさらに飛んでいくことを知らない。
「そういえば、すっごい食べてたもんね、。太るぞぉ」
エストがからかう。もう、とむくれるを、セバスチャンがまぁ、まぁ、とたしなめる。

(すごい食欲・・・そういえば前来たときはあんなには食べなかったな・・・。おかわりまでした上に、エストのデザートまで奪い取ってた・・・・ま、まさか・・・あの女たらしの子供ができたんじゃぁ・・・)
一人石化しながらも思考はリベルダムあたりまで飛んでいってるのかもしれない。
実際は、前来たときは慣れない環境ということもあり、緊張していたのだ。
食べるものも口にとおらないというの心境が、やっと慣れ始めてきたという嬉しい方向に向かっていることに喜ばなければならないのかもしれない。
だが、遠くリベルダム以上に離れていってるレムオンの思考には届かないのかもしれないが・・・。

「・・・・・・・・・・っくっく・・・・・・」

びくりと身体を振るわせる3人。なにやら奇妙な笑い声が聞こえたからだ。
「な、なに?今の?」
が反射的に構える。が、武器はセバスチャンに預けたままだ。
「レムオン兄さん・・・?」
エストがとっさに不気味にぼ〜っと足ってるレムオンに声をかける。ぽん、と肩に手をおいた瞬間だった。

「くっくっくっく・・・ははは・・・はっはっはっは!!!」
大声で笑い出したレムオン。
3人は見てはいけないものを見てしまったかのように、後ずさりし始める。

「はっはっは・・・セバスチャン、出かけてくるぞ・・・あーっはっは」
「・・・・・い、いってらっしゃいませ・・・・」
呆然と見送るセバスチャン。レムオンが愛用の2本の剣を持ったのは誰も気づかない。
まぁ、気づいたとしてもとめられる者はいなかっただろうが・・。

「・・・・・エスト兄様・・・・」
レムオンが出かけた後、残されたとエスト。
は魂が抜けたようにエストに話しかける。あと3日くらいは夢でうなされそうだ。
「どうしたの?・・・・」
エストもまた然り。これなら闇の神器の研究してるほうが遥かにましだったのかもしれない・・・。

「私、レムオン兄様の笑い顔見れた・・・・のよね・・・?」
「そう・・・だと思うよ・・・・・僕としては夢であることを祈るよ。」
二人は互いに顔を見合わせて、寝室に走っていく。
・・・・・そう、寝てしまえば。
明日になれば、いつものレムオン兄様に会えるのだから。
そう言い聞かせながら、二人は現実逃避に走ったのだった・・・・・・。


翌日。
うなされながらも、なんとか睡眠をとった二人が見たものは、いつもの「冷血の貴公子」レムオンであった。
「遅いぞ、二人とも。」
すでに朝食は済ませたらしく、食後のお茶を優雅に楽しんでいた。
エストとは無言でうなづくと、食卓にかける。

・・・・・・・あれは夢だったんだ・・・・・悪い悪い夢・・・・・・

そして、いつもと同じように、楽しい朝食が始まったのだった。


〜余談〜
黒い闇が冒険者ゼネテスを襲い、重症を負わせた事件は、あっという間にロストールに広まった。
「闇」と聞いて、ネメアまでもがその闇の捜索に乗り出したという噂もちらほらと聞こえるようになった。
だが、結局犯人は見つからず、「スラム街の黒き闇」とまでつけられ、長年、その話は語り継がれるようになったとか・・・・・。

FIN
一応、レムオン兄ラブラブな方に殺される前に言い訳しときます。
私はレムオン兄さん好きです、はい。
ただ、愛情の表現が下手なだけなんですぅ!!!
・・・・とりあえず、すいませんでしたぁぁぁ!!!

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