京浜急行 京急田浦駅
下りホーム&階段の大谷石積み

歴史の長い駅のホームで、創建当時に使用されたと思われる大谷石積みが今も多く残っていると言う話は、たびたび当ページでは出てくるのだが、いずれも更新によってかさ上げされた現ホームの下敷きになっていたり、大半が撤去されて端の部分がちょこっと残っているなどというケースが多く、間近で見ようものなら進入してきた電車にはね飛ばされるというような例が大半だ。ところがここ、京急田浦駅の大谷石積みは安全に手を触れることもできる。もっとも下り線ホームのみの話だが。

ご覧の通り、改札に続く通路が下りホームに接しており、階段踊り場の用壁も兼ねているからだ。丁寧に組み合わされた石組みは、上屋がかかっているせいか風化もせず、今でも大変しっかりしている。コンクリート打ちっ放しのホーム構造物が多い中で、何かしらこのうす黄色は暖かみを感じさせるようだ。

この駅、ホーム本体は小山を切り崩して造られた切取土盛りの上に造られており、改札口のある駅本屋とは長い階段と掘り抜き通路で結ばれている。大谷石はホームのみならず、この通路の用壁や基礎にも使用されているようだ。加工しやすい安価な建築材料として開業当時多用されたと思われ、湘南電鉄開業区間のみならず京浜電気開業区間にも大谷石積みホームが今でも多く残っている。そしてそれらの多くが、この京急田浦駅のように現役で現ホームの下を支えているのだ。まさに縁の下の力持ちと言うべきか・・・。

それとこの駅には他にも、湘南電鉄時代の新進コンセプトが伺えるような構造物が今でも使用されている。その一つが、前述の掘り抜き通路。トンネルを多用し、土盛り立体構造の多い線形で高速運転を実現しようとしたコンセプトは立体駅を多く造らざる結果を招き、建築費の高騰を招いた元凶であるが、逆にそういうコンセプトであるからこそ建築工法は新しいモノが多く取り入れられているようだ。

この駅の上りホーム通路は構造上ホーム下をくぐる形で設置されており、地上から開削してコンクリートで構築したとみえ、大変天井にゆとりがある。多少薄暗いが、彫り抜いた通路に木造の上屋を架けているので閉塞感は感じられない。他の同時代の私鉄では途中駅の小駅で、こういった構造はあまり見られないと思う。ホーム上屋にもちょっとした意匠が施してあり、隠れたところに「シャレ」が見える。

それともう一つ、上りホーム脇に風化しかけた土留壁と当時のホーム終端を示す境界石が残っている。当時、身近に手に入る安価な素材と土留め技術と言えば、昔ながらの間知石による布積み工法があった。これを当時使用され始めたモルタルと組み合わせ、さらに強固にしたのがこの土留壁の工法である。石積みを見てみると、奥に行くに従って先細に成型された間知石の間に、小さな玉石や砂利を含んだモルタルが充填されているのがわかると思う。

土留壁一つとってもコストパフォーマンスを考慮に当時の新技術を駆使して高速鉄道を造ろうとした当時の湘南電鉄創業者は、野村竜太郎という鉄道院副総裁や南満州鉄道総裁を歴任した工学博士だったという、納得である。そしてこの創業者のもと、新進気鋭の社風が生まれ、後に「京急魂」となって今日に引き継がれていると聞く。うーん、やっぱり京急は素晴らしい!
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