その日は、朝から、期待感があった。 

 伊丹市内を歩いていると、『地球一周の船旅』というポスターが、大きく目に飛び込んできた。さっそく旅行社に電話をすると、スタッフの神林さんがでた。
 「すぐ、パンフレットと資料をお送りしますので、ぜひご検討下さい。またお電話をしますので、よろしくお願い致します」
 二日後に、パンフレットと資料が、送られてきた。
 6月27日に、東京の晴海埠頭を出港。アジア、中近東、ヨーロッパ、アフリカ、南米、中南米、北アメリカ、ロシアを経由して、10月17日に帰港というスケジュール。すばらしい写真の数々がのっている。
 前回、世界一周クルーズをした人々が、いかにすばらしい船旅をしたかという感動の紀行文が掲載されていて、いやが上にも興味をそそられるが、一ヶ月後の出発がとても可能とは思えなかった。
 今年は無理だけれど、仕事のやりくりをして、費用の捻出をすれば、来年にはなんとかいけるかもしれない。ぜひ来年には行ってみたいと思った。
  夜になると、神林さんから電話がかかってきた。
 「今回はすばらしい寄港地が並んでいます。めったに行けないところが多くありますので、ぜひ行ってください」
 「とても行きたいのですが、今回は無理です。来年、もし事情が許せば、行きたいのですが・・・・・」
 神林さんは、それでもぜひ行ってほしいと、色々と誘惑の言葉を並べて、私の心をくすぐった。
  送られてきた資料を読んでいると、船内では各種のイベントが行われる。先客が自分の得意な分野を生かして、自主講座を開くことができるとあった。
 2,3日して、再び神林さんから電話がかかってきた。
 「このコースは、来年はないかもしれません。今回限りかも知れませんの、いいチャンスです」
  この言葉が殺し文句になった。いいチャンスかもしれないと思えてきたので、思わず言ってしまった。
 「何とか行けるように、努力してみましょう」
 「日にちがありませんので、とりあえずパスポートと、手続き用の写真を20枚送ってください。費用は出発日までに振り込んで頂ければけっこうです」
 神林さんとの会話が、だんだんちぐはぐになってきた。
妻と娘に、「今度のコースは今回限りかもしれないので、ぜひ行ってみたい」と話すと、
 「そんなに行きたければ、行ってらっしゃい」という返事だった。
 これですべてが決まった。
 出発まで、あと一ヶ月もない。早速準備にとりかかった。

B5版  1110頁  4500円(税別)

                             出版社  第三書館