夏の手紙


八月。
短い休日を利用して南原は四国の実家に帰った。
特に用事がある訳ではなかった。
家族や友人の顔を見て、変わらぬ風景を確かめて・・・
ただそれだけの帰省だった。

夏の昼下がり。畳に寝ころび、うとうとしていると
自分が35歳の芸人だか、10歳の子供だかわからなくなっていく。
縁側の向こうに見える夏の庭。
サルスベリの赤い色が鮮やかに目にしみる。
遠く蝉の声が響いている・・・・

「ナンチャン!」
不意に少女の声で目が覚めた。
ぼんやり目を開けると水色のワンピースを着た髪の長い少女が
庭先から縁側に乗り出してこちらを見ている。
「・・・ん?・・・なんだ、おまえ・・・」
まだもうろうとしている南原が目をこすりながら体を起こす。
「ウッチャンは?・・・ウッチャンはいないの?」
少女はきらきらした瞳で南原に話しかける。
南原は頭をかきながら眠そうにぼそぼそと答える。
「ウッチャンってここ俺の実家だよ・・・なんであいつが・・・」
「だっていつも一緒じゃない、ナンチャンと」
「あれは仕事・・・プライベートは別・・・」
「・・・そうか・・・つまんない・・・」
少女はふくれて縁側にちょこんとすわった。
蝉の声だけが辺りに響いている。
「・・・俺昨日寝てないんでもうちょっと寝たいんだ・・・
悪いけど帰ってくれる?」
南原は少し困ったように少女に話しかけた。
「あ、ごめんなさい」
少女は南原の言葉にすまなそうに立ち上がった。
そしてうなだれたまま縁側から離れた。
南原はそんな彼女の表情に同情して、思わず声をかけた。
「・・・君、内村に会いたいんだ?」
「うん」
「なんか伝えとこうか」
少女の表情が急に明るくなる。
「いいの?」
「いいよ」
「じゃ、これ渡してくれますか?」
少女はポケットの中から小さな封筒を取り出した。
幼い字で『内村光良様へ』と書いてある。
「中読んじゃダメだよ」
南原に封筒を渡しながら少女は恥ずかしそうに言った。
「大丈夫、読まないよ」
南原は真面目に答えた。そして少女の顔をまっすぐに見た。
「・・・好きなんだ、内村のこと」
少女は顔を赤くしてうつむいた。そして小さくうなずく。
南原はそんな彼女の様子を愛しげに見つめた。
少女は南原の視線を感じて顔を上げた。南原が微笑む。
すると彼女は安心したようにぽつりぽつりと話し始めた。
「でもナンチャンといるウッチャンが一番好き。
ナンチャンと笑ってるウッチャンが一番好き」
少女は雲一つない夏の空を見上げた。
「辛い時も悲しい時もテレビで二人を見ると元気が出るの。
笑った後みんな忘れちゃうの」
南原は黙って彼女の言葉に聞き入っていた。
「・・・いつも見てくれていたんだ・・・」
「うん」
「ありがとな。内村にも言っとくよ」
少女は嬉しそうに南原を見つめる。
「ごめんなさい、疲れてお昼寝してたとこ起こしちゃって・・・」
「いいよ、こんな可愛い女の子なら」
少女ははにかんだように微笑むとペコリと頭を下げ、
庭を出ていこうとした。しかし一瞬振り返って南原を見た。
「ずっとウッチャンをよろしくね・・・・私もずっと二人を応援してるから」
南原は笑ってうなずいた。

休日あけの収録。久しぶりに内村に会うのはなんだか照れる・・・
南原はそう思いながら内村とぎこちない挨拶を交わした。
そしてポケットからおもむろにあの少女からの手紙を取り出した。
「実家で昼寝してたら、10歳くらいの女の子がやってきてさ、
『これ、ウッチャンに』って・・・」
内村はぽかんと南原の手元を見た。
「南原に俺宛の手紙?・・・」
内村は少し苦笑して手紙を受け取った。
「いや、俺が伝言あるならするよって言ったんだ」
「おまえ、女の子には甘いんだから・・」
内村はあきれたように笑って手紙を開く。南原も笑う。
「すっげー可愛い子だったぜ」
「なるほどね」
内村は軽く流して笑いながら手紙を読み始める。
しかしその笑みは手紙を読み進めるうちに次第に消えていった。
南原はその意味が分からず不安げに内村の表情と彼の手元を
かわるがわる見た。
内村はかすかにため息をつくと丁寧に手紙をたたんだ。
そしてかなしそうな、うれしそうな表情で南原を見た。
「・・・・あの子、おまえんとこに行ったんだ・・・」
「あの子って・・・知ってんのか?」
南原は困惑したように内村を見つめる。内村がうなずく。
「知ってるよ。でも何年ぶりだろう・・・・どんな感じの子だった?」
「どんなって・・・水色のワンピース着て、髪が長くて
元気で可愛い子だったよ・・・
『ウッチャン大好き』 『いつもテレビ見てる、見ると元気出るの』
って笑ってた・・・」
南原は必死に記憶をたどりながら言葉をつなげた。
内村の瞳がだんだん潤んでいく。
南原が怪訝そうに内村を見つめる。
すると内村は小さくつぶやくように言った。
「その子、俺が小学6年生の時亡くなったんだよ・・・」
南原は驚いたように内村を見つめた。声も出なかった。
「小5の時俺その子のこと好きだったんだけど、言えなくて・・
言えないまま引っ越して・・・
引っ越し先で後で知ったよ・・・交通事故だったって・・・」
内村の手の中の手紙はいつのまにか20年もの時の流れに
薄茶色に変色していた。
「・・・なんで、南原のとこに行ったんだろ・・・」
内村は遥か遠くを見つめてつぶやいた。そして南原に目を移した。
「あの子、おまえになんか言ってたか?」
「・・・『ウッチャンのことよろしくね』って・・・」
南原が辛そうに答える。
「そうか・・・」
内村はかみしめるようにつぶやくと、まっすぐに足元を見つめた。
南原がためらいがちに言葉を続ける。
「『私もずっと応援してるから』って・・・」
内村は手紙を胸ポケットに入れてうなずいた。
「南原、ありがとう、これ預かってくれて」
南原は何も言えない。内村はふと自分の腕時計に目をやった。
「時間だな・・さ、行くか」
内村はかすかに笑って南原を見る。
南原が(いいのか?)という目をすると、内村は(いいんだよ)という
目で返す。
二人は勢い良くスタジオのドアを開けていった。

「あの子、ずっと見ててくれたんだ・・」
「そうだよ」
二人は心の中でそう語り合っていた。
歓声の中、観客達に頭を下げながら。



written by MANA



■ 麻奈さんからの「あとがき」 ■
はじめてのウンナン小説なんです。
  未熟だし内容もありがちで恥ずかし〜!!
  でも愛情だけはいっぱい込めてるつもりなんで
  許してやって下さい。

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